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三井物産戦略研究所WEBレポート
2010年6月11日アップ
2010年後半の世界政治・経済
 トピックス:世界経済の構造転換と新興国の牽引力

地域別構成比の変化と高まる新興国の牽引力

 2009年にスタートした今回の世界経済の回復局面においては、成長の主役が完全に新興国に移行しそうだということが、最大の特徴と言えるだろう。ただし、それは、先進国と新興国との成長ペースの格差が拡大したためではなく、2000年代に入って新興国の経済成長が本格化したことで、世界経済に占める新興国のシェアが大幅に上昇したことの影響が大きい。
 前回の回復局面がスタートした2003年には、世界のGDPの構成は、先進国8割に対して新興国・途上国は2割にとどまっていた(次ページ表参照)。それが2009年には、先進国と新興国の成長ペースの差を反映して、先進国7割、新興国・途上国3割という構成に変化している。
 そのため、世界の成長率に対する国・地域別の寄与度の構成も大きく変容することが想定される。IMFのデータによると、前回の回復局面の初期2年間(2004年、2005年)の平均で、世界の実質成長率は、物価水準の差を調整した購買力平価(PPP)ベースで4.7%、実際の市場で取引される為替レートのベースで3.7%となっているが、この3.7%のうち、先進国が2.30%、新興国・途上国が1.38%の寄与となっており、依然として規模の大きい先進国経済が回復をリードしたことが読み取れる。
 それに対して、今回の回復局面では、2010年4月にIMFが発表した世界経済見通しによると、当初2年間(2010年、2011年)の平均の世界の実質成長率はPPPベースで4.4%、市場レートベースで3.3%とされているが、この3.3%のうち、先進国が1.57%、新興国・途上国が1.84%の寄与となっており、新興国・途上国の寄与が先進国を逆転する形になっている。
 これを国・地域別に見ると、前回は米国が3.3%成長で0.99%の寄与、EUが2.2%成長で0.68%の寄与であったのに対して、中国は10.3%の高成長ながら0.45%の寄与と、米国やEUを下回る寄与にとどまっていた。それが今回は、米国が2.8%成長で0.70%の寄与、EUが1.4%で0.39%の寄与にとどまるのに対して、中国は10.0%成長で0.85%の寄与となり、ここでも逆転が起きることが予想されている。
 さらに、成長力の高い新興国・途上国のウェイトが大きくなっていること自体が、世界の経済成長率を押し上げる要因となっている。仮に、世界のGDPの国・地域別の構成が2003年のままであったと仮定して、IMFによる2010年、2011年の各国・地域の成長率をあてはめて積み上げると、世界の成長率は2年間平均で2.9%にとどまることになる。言い換えれば、実際の構成比で積み上げた3.3%という予測値のうち0.4%は、2003年からの世界経済の構成の変化によるものということでもある。
 これらの数値自体は、あくまでもIMFの予測を前提とした一種の試算に過ぎないが、今回の世界経済の回復を新興国がリードする形になるということと、世界経済の構成の変化によって、世界の成長率が押し上げられるという方向性は、ほぼ間違いのないところと考えられる。

回復局面における世界経済の成長構造
  • 出所:IMF‘World Economic Outlook April 2010’より筆者作成


新興国主導の不安要素

 新興国のウェイトが高まることで世界全体の成長率が上昇することは、世界規模で事業を展開する企業にとっては好ましい変化と言える。ただ、それは新興国の成長が停滞する場合に、世界経済が受けるインパクトが年々大きくなってくるということでもある。最大のウェイトを占める中国をはじめ、新興国では、潜在的な成長余地は大きいものの、経済成長の安定性には懸念が大きい。調整的な失速が起きた場合にも、世界経済は大きな打撃を受けることになる。
 また、今後の世界経済の回復をリードする新興国の経済成長においては、産業の工業化にともなう都市建設をはじめとするインフラ整備が大きな部分を占めることが予想される。その際には、建材等の基礎的な物資とその原材料となる各種資源の需要が大幅に拡大することになる。さらに、環境対応やエネルギー効率、生産効率の点で遅れている新興国が主導する経済成長は、先進国主導の局面以上に、世界のエネルギー消費量や環境への負荷の拡大も加速する可能性が高い。その帰結としては、各種資源の需給のタイト化、それにともなう価格上昇圧力の高まり、あるいは環境をめぐる国際的な摩擦の激化といった展開を想定しておく必要があるだろう。


総論
■2010年後半の世界政治・経済−回復する経済と高まる政治リスク−
トピックス
■米国経済の現状


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