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三井物産戦略研究所WEBレポート
2014年2月17日アップ
国家間経済格差の縮小と産業の力

 21世紀に入ってからの世界経済の際立った特徴の一つとして、産業活動のグローバル化を背景とした新興国の台頭が挙げられる。それにともなって、先進国と新興国の経済格差、いわゆる「南北格差」も縮小してきていることが推定される。以下では、そうした動きを改めて検証してみたい。


国家間の格差は縮小傾向に

 一国内の個人間や世帯間の格差の度合いを表す代表的な指標として「ジニ係数」が知られている。同係数は、構成員全員の所得が均等である状態は0、一人がすべてを独占している状態は1となり、数値が大きいほど格差が大きいとされる。図表1は、同係数の考え方を国家間の経済格差の測定に適用して算出した「国家間ジニ係数」の推移を示している。これは、世界全体を一つの国に見立ててジニ係数を算出したものであるが、各国の国民一人一人の所得が一人当たりGDPで均等であると仮定することで、各国内の格差の要素を排除し、国家間の格差だけを抽出した指数としている(図注参照)。

図表1.国家間ジニ係数の推移
  • 出所:IMF "World Economic Outlook Database, October 2013"および世界銀行 "World DataBank" 所収データより作成
  • 本稿の「国家間ジニ係数」の算出に用いたGDPは、各国の物価水準が等しくなると想定される購買力平価(PPP)ベースの為替レートでドル換算した値を用い、データのない1979年以前は1980年の値を各国の実質成長率で割り戻した値を使っている。また、2013年の値はIMFが2013年10月に公表した見込み値に基づくものである。対象とした国は1960年から2013年までのGDPと人口のデータがそろう83カ国で、国家の形が大きく変わったドイツやロシアをはじめとする旧ソ連諸国および一部の中東欧諸国と、紛争等で経済が破綻していた時期があるアフガニスタンやイラク、シリア等は含まれていないが、2013年時点の世界GDPおよび人口の約7割をカバーしており、全体の傾向を把握するうえでは問題ないものと考えられる。

 図表1の「全対象国」の推移を見ると、1980年代に緩やかな低下基調となり、1990年代以降は急速に低下している。この動きに関しては、世界人口の約2割を占める中国の高成長の影響が大きいことが容易に想像されるため、同国を除いた指数も算出している。そちらの方は、1980年代から90年代にかけてはそれまでと同様の上昇基調にあり、この時期の全対象国の指数の低下は概ね中国に起因するものと考えられる。しかし2000年以降は、中国を除いた指数も低下に転じ、2008年末からの世界金融危機を経ても、その傾向は変わっていない。多くの国で国内の格差拡大への問題意識が高まる一方で、国家間の格差は、全体として見れば縮小を続けているのである。


格差の縮小は裾野の広い現象

 こうした局面変化が、どこからもたらされているかを見るため、個々の国の経済水準の変動を見てみよう。そのための指標として、ここでは、各国の一人当たりGDP(PPPベース)を、世界最大の経済大国で、経済水準も最も高いクラスにある米国との比率で表した指数を用いている(同指数の分布状況については図表2参照)。

図表2.経済水準別に見た世界経済の構成(2013年)
  • 出所:IMF "World Economic Outlook Database, October 2013"所収データより作成

 図表3は、中国を除く国家間ジニ係数が低下に転じた2000年以降の13年間と、それに先立つ1987年から2000年までの13年間の二つの期間を対象に、横軸に各国の期初の米国比経済水準、縦軸にそれぞれの各期間中の変化率(たとえば米国比20%であった国が30%になれば1.5倍と表記)をとって各国をプロットしたものである。対象とした2000年を挟む二つの期間の世界全体の一人当たりGDPの増加率は、前の期間が28%、後が31%とほぼ同水準であるが、その内容には大きな差異がある。
 主に先進国で構成される米国比50%以上の層では、いずれの期間においても韓国、台湾、シンガポール、香港のアジア勢以外は1.0倍のライン近傍に集中しており、米国との相対関係の変化は限定的であった。それに対して50%未満の層では、中国の突出した成長が際立っているほかは、2000年までの13年間には、変化率が1.0倍を下回る、米国の成長ペースに追い付けていない国が過半であったものの、2000年以降の13年間には大多数の国が1.0倍のラインを上回っており、1.5倍超の高成長を記録した国も少なくない。その傾向は米国比20%未満の国々、取り分け10%未満の低所得国で顕著になっており、アジアではインド、ベトナム、ラオス、カンボジアなど、アフリカではナイジェリア、エチオピア、モザンビークなどの高成長が目立っている。1980年代のデータがそろわないため図表2にはプロットしていないが、2000年代にはミャンマーや旧ソ連諸国の多くも大幅な上昇を示しており、この時期の低所得国の高成長と格差の縮小は、きわめて裾野の広い現象であったことがうかがえる。

図表3.世界各国の経済水準の変動
  • 出所:IMF "World Economic Outlook Database, October 2013"所収データより作成


背景はグローバル化の潮流

 今日の世界においても、国情の不安定さなどにより経済発展の糸口をつかめず、世界の経済発展から取り残されているる国も少なくない。しかし、図表1、3で示したデータを踏まえると、2000年以降、多くの低所得国の高成長にともなって、世界各国の経済水準は全体としては均等化に向かっていると評価できる。これは、アフリカの多くの国が独立を果たして、ほぼ現在の形になった1960年以降の世界が初めて経験する事態と言えるだろう。
 その原動力となったのは、経済のグローバル化を背景とした、貿易や投資といった産業活動の活発化であった。冷戦の終結により世界経済が一体化し、国と国とのつながりが緊密化していくなかで、低廉な労働力と未開拓な消費市場を豊富に抱える新興国、取り分け低所得国には、国内市場が成熟化した先進国からの投資資金が流入し、工業化と輸出の拡大を軸とする経済発展が加速した。中国の高成長によって、エネルギーや金属、穀物といったさまざまな資源の需給の逼迫が予想されるようになり、資源価格が上昇したことで、資源産出国の輸出と投資資金の流入が拡大したことの影響も考えられる。
 図表4、5は、経済水準で分けたグループごとに輸出規模と直接投資流入規模(いずれも物価変動分を除いた実質ベース)の2000年以降の推移を示したものであるが、国家間格差が縮小に転じたこの期間には、米国比10%未満の低所得国(除く中国)の伸びの大きさが際立っている。輸出額では中国ほどではないが他のグループの伸びを大幅に上回っている。直接投資流入額では、中国をも上回る拡大ペースを示し、2008年末からの世界金融危機により頭打ちになっている感もあるが、依然として高水準の流入が続いている。

図表4.新興国の輸出規模の推移 図表5.新興国への直接投資流入規模の推移
  • 出所:IMF "World Economic Outlook Database, October 2013"所収データより作成
  • 出所:IMF "World Economic Outlook Database, October 2013"所収データより作成


発展の好循環と産業の力

 新興国、取り分け低所得国の経済発展が、輸出と国外からの資金流入の拡大という外部要因に支えられているという点は、その持続性の面での不安材料でもある。今後、先進国の景気が持ち直すことで、極端な金融緩和政策が徐々に平時の状態に戻されていくことの影響が懸念される。また、2012年に中国の成長ペースが鈍化すると、多くの新興国でインフレ体質、国際収支の赤字、為替の不安定性、産業構造の偏りといった構造的な脆弱性が目立ってきている。2014年からの数年間は、低所得国の経済発展にとっては正念場ということになりそうだ。
 ただ、多くの低所得国で、経済発展に向かうプロセスが既に起動していることは間違いない。濃淡の差はあるが、運輸、通信、エネルギー、治安、医療、教育といった有形・無形のインフラの整備と、農業生産の拡充および効率化、工業化の進展といった展開が、多くの国で進行している。それを国外から流入する投資資金と輸出市場の拡大が後押しし、経済発展の実績がさらなる資金流入と輸出拡大を促すという好循環も形成されている。
 この循環においては、国情の安定化に向けた自助努力や国際的な援助が前提ではあるが、貿易や投資といった産業の力も不可欠な要素となる。産業の視点に立てば、低所得国の先進国との経済格差は、今後の成長余地の大きさをも意味する。加えて、世界の人口の4割以上を抱えてもいる。中長期的には、こうしたポテンシャルの大きさが世界の産業を引き付ける構図に変わりはないだろう。依然として発展のプロセスに乗れない国の問題は依然として残っているが、多くの低所得国がグローバル経済に一段と深くつながっていくことで、全体としての格差が縮小していく流れは、これからも世界経済の大きな潮流の一つであり続けるものと考えられる。


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