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週刊東洋経済 2002年4月20日号掲載
特集「ウォルマート日本上陸 流通新再編の遠雷」より
英国 三強体制の行方

アズダを買収し英国に進出したウォルマート。
地元の二強、テスコ、セインズベリーとの本格開戦が迫る。


 ウォルマートにとって日本進出の先行案件は、99年の英国でのアズダ買収だろう。ウォルマートは、西友と提携して上陸した日本で、どんな展開をしようとしているのか。それを予測するうえで、英国におけるウォルマート−アズダの歩みは大いに参考になると思われる。
 文化や制度の異なる国では、流通の仕組み、小売りの業態などが、さまざまな面で異なった進化を遂げる。だからこそ小売業の国外進出は難しい。ことに、消費生活全般にかかわる総合小売業の場合は、巨大な流通企業が存在している先進国に出ていって、一から事業を構築するのは、ほとんど不可能に近い。近年でも、日本におけるカルフールの不振、マークス・アンド・スペンサーの大陸ヨーロッパからの撤退といった例が、それを如実に示している。
 今後は、流通先進国間の総合小売業の相互進出は、既存企業との提携や買収といった形態に絞られてくるだろう。ウォルマートの英国や日本への進出は、その流れに沿ったものと理解できる。
 英国の小売業界の特徴としては、日本の総合スーパーや、米国のディスカウントストアやスーパーセンター、大陸ヨーロッパのハイパーマーケットのような、衣食住のすべてをカバーする総合業態が、極めて手薄だという点が挙げられる。
 テスコやセインズベリーなど英国小売業界の上位企業の多くが主力として展開しているのは、食品と日用雑貨に特化した大型店舗、スーパーストアである。それに対して、ウォルマート−アズダが展開しているのは、圧倒的な低価格で、衣食住の全分野をカバーするワンストップ型の総合業態である。その意味で、ウォルマートの英国進出には、空白地帯へ攻め込んでいくイメージが強い。
 英国の上位企業では、マークス・アンド・スペンサーが衣食住の全分野を扱っているが、全商品を高品質なプライベートブランド(PB)で固めており、低価格で集客しようというウォルマート−アズダの直接の競争相手とはなりにくい。

アズダは低価格の総合業態という「空白地帯」を攻める

今後は地元二大企業との本格開戦へ

 90年代に入って停滞していたアズダの店舗展開は、ウォルマートの傘下に入って以来、急速に活発化した。だが、ウォルマート−アズダが、いつまでも空白地帯を進んでいけるわけではない。寡占化が進み、市場が飽和しつつある食品分野では、今後の成長余地は限られていることから、地元の二強、テスコとセインズベリーが、ハイパーマーケットの展開を本格化させつつあるからだ。
 ウォルマートがアズダを買収したころから、テスコは「エクストラ」と名づけたハイパーマーケット業態の店舗を急速に増やしてきている。もう一方のセインズベリーも、非食品を拡充した大型店舗の出店を加速させている。
 品質や嗜好による差別化が比較的容易な食品分野と違って、非食品のウエートの高い総合業態は体力勝負の価格競争に陥りやすい。ハイパーマーケットの展開は、英国上位二社にとって両刃の剣となる。
 ウォルマート−アズダの事業が軌道に乗らなくとも、彼らが挑んでくるであろう価格競争に巻き込まれてしまえば、テスコ、セインズベリーも無傷では済まない。ウォルマートの戦略は、英国での流通業界の将来像を左右することになる。
 空白地帯への上陸となった英国進出に対して、ウォルマートの日本進出は、大手総合スーパーが次々と経営破綻するほどの、厳しい競争環境下での上陸となる。西友への段階的出資という極めて慎重な計画をとっているのも、無理からぬところだ。
 英国でのウォルマートは、同国市場の変化に適合した新しいタイプの店舗の開発を進めている。日本においても、現在の市場環境に適合した「日本版スーパーセンター」と呼べるような店舗を開発できるかどうかが、成否のカギとなるだろう。


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