Works
The World Compass(三井物産戦略研究所機関誌)
2003年7-8月号掲載
若者たちの未来−不安の時代を超えて−

 2003年初め、読売新聞は全国5,000人の10代の若者を対象とした「全国青少年意識調査」を行った(有効回収2,942人)。その調査結果をまとめるにあたって、筆者も執筆作業に参画させていただいた(単行本「素顔の十代」として刊行)。本稿では、当該調査の結果を紹介しつつ、若者たちの未来観と日本の未来像について述べてみたい。

「全国青少年意識調査」について「全国青少年意識調査」について
対象者 全国の12歳以上の中学生から19歳まで(1983年2月1日から90年4月1日までに出生)の男女5,000人。住民基本台帳から層化2段階無作為抽出法(全国250地点)。 
実施方法 郵送自記式(インターネット回答併用)
実施日 2002年12月17日投函
有効回収 2,942人(回収率58.8%、インターネット回答78人含む)


「不安の時代」の若者たち

 世紀の変わり目から数年間の日本経済の状況を一言で表すとすれば、「不安の時代」という表現が最もふさわしいのではないだろうか。テレビや新聞でも、終わりの見えない不況、相次ぐ企業倒産、リストラ、官庁や企業の不祥事、テロ、戦争、疫病と、私たちの不安をかきたてる話題のオンパレードだ。
 こうした時代のムードは、若い世代にも確実に伝わっている。読売新聞の調査でも、「日本の将来は明るいと思うか」という設問に対して、「明るい」と答えたのは「どちらかといえば明るい」という回答を合わせても4分の1に満たず、大部分の若者が日本の将来を「暗い」と予想している(図表1)。自由回答として寄せられた意見を見ても、「日本はこの後どうなるんでしょうか」とか「将来が心配」といった悲観的なものが目立っている。

図表1.日本の将来は明るいと思うか?
 
図表1、3〜6は読売新聞東京本社世論調査部「全国青少年意識調査」による


 若者たちの不安の高まりは、現在の不況の長期化が大きな要因となっていることは間違いないが、より長期的な視点で、自分たちが社会を担う将来の日本に対する不安も膨らんでいるものと考えられる。確かに、急速に進んできた少子化の影響で、今の10代の若者が社会の主力となる21世紀前半の日本では、経済成長が鈍化することは避け難い。
 図表2は、筆者が試算した2050年までの経済成長率の見通しである。国立社会保障・人口問題研究所の人口推計をベースに、経済全体での供給力の伸びを推計することで算出したもので、「延長ケース」とあるのは、年齢別・性別の労働力率や失業率、資本装備率と労働生産性の関係など、基本的な経済構造が現状のままの場合、また「適応ケース」というのは、高齢者や女性の就業率が、大幅に上昇する場合の成長率の推移を示している。相当楽観的な適応ケースでも、成長率は1パーセント台前半を維持するのがやっとという時代になる。成長率だけで見れば、「失われた10年」と呼ばれた90年代のような状況が、延々と続くイメージである。

図表2.成長率の試算
 

試算の詳細はレポート「高齢化時代の日本経済」を参照のこと



努力しても報われない?
   
 低成長は必ずしも経済の停滞を意味しない。これからの時代は、経済の規模は拡大しなくても、技術の進歩や消費者の変質など、質的な変化は従来よりも遥かに目まぐるしくなる。その変化の激しさが、規模の拡大に代わる経済のダイナミズムの源泉になる可能性は十分ある。
 とはいえ、激しさを増す時代の変化は、企業にも個人にも進化を要求する。時代に取り残された企業や個人は容赦なく仕事を奪われてしまう。そうした厳しい状況は、90年代以来の長期不況を背景に、すでに定着しつつある。それがまた若者たちの不安をかきたてる要素となっているのだろう。それを踏まえて見ると、かなり気になる傾向が、今回の読売調査でも表れている。「今の日本は、努力すれば、だれでも成功できる社会だと思うか」という問いに対して、4人に3人が「No」と答えているのである(図表3)。

図表3.今の日本は、努力すれば誰でも成功できる社会だと思うか?
   

 ここで、彼らが「努力」という言葉に何をイメージしているのかは明確ではない。社会に出る前の若者が、昨今のテレビや新聞の報道から、漠然と不公平な社会をイメージしていても不思議ではないが、より直接的には、大多数の10代の若者が直面している勉強とか受験に関する「努力」を疑問視しはじめている可能性もうかがえる。「学歴が高い方が、自分の将来に有利だと思うか」という問いに対して、「とても有利」という認識の人は全体の3割弱にとどまり、「多少は有利」という冷めた見方をする若者はその2倍、6割近くに達しているのである(図表4)。

図表4.学歴が高い方が、自分の将来に有利だと思うか?


 「努力しても無駄だ」という認識は、努力をしないための言い訳ともとれるが、学歴の持つ重要性が薄れてきているという認識は、あながち間違ってはいない。90年代の長期不況が終身雇用制を崩壊させ、今では転職やリストラが珍しくなくなった。有名大学を出ていても、給料に見合った仕事ができなければ容赦なくリストラの対象になるし、転職の際の就職活動では、学歴よりも、どんな仕事をしてきたかや、どんな専門性を持っているかの方が重要になる。若い世代の人々もすでにそれに気付いているのだろう。
 努力しても報われないという思いが、時代の変化に適応するための努力の放棄につながるのだとすると、本人たちはもちろん、日本の社会、経済全体が活力を失ってしまうことにもなりかねない。それを避けるには、「学歴」に代わる努力の対象、さらには「良い大学を出て良い会社に勤める」という従来型のサクセスモデルに代わる新しい人生設計のモデルを明確にしてやることが必要だ。
   

未来の「生き方」
   
 今の10代の若者たちは、日本全体が将来のイメージを見失っているなかで人生の大部分を送り、自分自身でも努力する対象を見失っている面もある。しかし、彼らが描いている、自分たちの「望ましい将来像」に関するデータは、日本全体の望ましい将来像、目指すべき方向性を考えるうえでのヒントになりそうだ。
「どんな人生を送りたいと思うか」。この問いに対する答えの上位は、七つの選択肢(複数回答可)のうち「好きな仕事につく」、「幸せな家庭を築く」、「趣味などを楽しむ」の三つが占め、それらに次ぐ「金持ちになる」を大きく引き離している(図表5)。これは、今以上に贅沢な消費生活よりは、ゆとりのある生活や、自由に仕事が選べる社会を望む若者が多いということだ。となれば、これからの生活水準の上昇は、消費の拡大よりも、仕事の充実や負担の軽減といった形で実現される方が望ましいということになる。
   
図表5.どんな人生を送りたいと思うか?(複数回答可)


 能力を生かせる仕事、やりがいのある仕事、面白い仕事、時間が自由になる仕事、お金を稼げる仕事。それぞれが望む生き方に見合った仕事を選べる社会が、理想の未来像として浮かび上がる。
 仕事の場については、選択肢はすでに広がりつつある。大きな潮流として認知されているのはNPOやNGOだ。かつては、社会活動といえば無償のボランティアが当たり前であったが、NPOやNGOでの仕事は相応の報酬が前提であり、生活の基盤となる職業としても十分選択肢に入ってくる。
 また、ベンチャー企業設立のチャンスも広がってきた。ドット・コム企業がもてはやされていた頃に比べるとハードルは高くなっているが、多くの若者が、起業を現実的な選択肢として視野に入れている。
 そしてもう一つ。「フリーター」という生き方である。稼ぎの多さよりも自分の時間を大切にする生き方は、徐々に社会的な認知を得てきている。今回調査でも、6割近くの若者が、フリーターという生き方に理解を示しているし、自由回答欄にもフリーターを擁護する意見が目立っていた(図表6)。

図表6-1.「フリーター」の生き方を理解できるか?

図表6-2.自由回答欄に寄せられた「フリーター」に関する意見
「現在の日本の就職の難しさを考えると、フリーターにならざるを得ないということも理解できるが、将来の生活を考えると、やはりフリーターとして生活するのは不安である。」 高3・18歳・男
「誰もが好きでフリーターになっているわけじゃないと思う。職業につきたくてもつけない人もいるから、フリーターになってしまうのだと思う。」 中2・14歳・女
「私はずっとフリーターに抵抗がありましたが、今はありません。フリーターをして、社会に多少もまれたほうが良いと思うからです。」 高3・18歳・女
「フリーターがいないと日本はやっていけない。」 高1・15歳・女
「結婚や職業は人それぞれに納得できるなら、フリーターでも独身でもそれはそれで、スバらしいと思う。」 中3・14歳・男
「自分の夢をかなえるためとか、目的があったり、理由があったりするのに、『フリーター』というだけで今の大人たちはへんな目で見たり、理解してないのはどうなんだろう。話を聞いてあげたらいいのにと思う。」 高3・17歳・女
「ただ単にブラブラして親のスネをかじっている人は理解できないが、夢の準備期間としてフリーターしてる人は応援したいと思う。」 高1・16歳・女


 フリーターに理解を示すといっても、その意味合いは大きく二つに分かれているようだ。一つは、「仕方ない」とか「好きでやっているわけではない」といった消極的な意味での理解である。その一方で、「夢の準備期間としてフリーターしてる人は応援したい」とか、「夢を探すためにフリーターやってる」というような、限定的ながらも積極的に評価する声も少なくなかった。
 確かに、社会活動やベンチャーで活躍する若者には、フリーターから転じたケースも目立つ。そういった人々は、フリーターの特権である自由な時間の多さを活かして、いろいろな国を回ったり、趣味に打ち込むことで、社会活動や起業に向かう意志と能力を高めてきたのだろう。今の若者にとって、フリーターという生き方は、その後の「志の高い」生き方のための準備段階ともなり得る。彼らが社会の主役になる時代には、フリーターという生き方も、サクセスモデルとは言わないまでも、一つの選択肢として今よりさらに定着することになるだろう。


豊かさは仕事から

 NPO、NGO、ベンチャーなど、新しい仕事の形態が一般化することで、企業での仕事の性質も変わっていくだろう。ただでさえ労働力人口が減少していくなかで、人材がフリーターや社会活動、ベンチャーへと流れれば、既存の企業は事業を維持するための人材確保に苦労することが予想されるからだ。
 かつては、企業での仕事は経済的な安定度の面で、自営業やフリーターに比べて有利であった。しかし、終身雇用や年功賃金の放棄といった近年の流れから考えると、それも確かなものではなくなっている。働く側もそれを感じ取っており、すでに多くの企業が、優秀な若手の流出に悩まされている。企業は、優秀な人材をつなぎとめるために、仕事の自由度を高めたり、それぞれが能力を発揮できる環境を整える方策を採らざるを得ないだろう。また、企業としての社会的な意義を強調することで、人材を集めることも考えられる。これからの企業は、自由とやりがいを求める者にとって、より働きやすい場となっていくことが期待できる。
「仕事」の性質は時代とともに変化してきた。日本で、企業が最大の「仕事の場」となったのは、せいぜい、ここ二世代ほどのことに過ぎない。次の世代でその状況が崩れても、さほど驚くような話ではない。
「仕事」というのは、辛い、苦しい、束縛されるといったネガティブな面と、人や社会の役に立ったり自分の能力を発揮することで喜びを得るというポジティブな面を併せ持っている。仕事の選択肢の広がりは、ネガティブな面を薄め、ポジティブな面を強める動きと言える。仕事は、「いやいややる辛いもの」から、「喜んでやる楽しいもの」へと性格を変えていく。若者たちの未来の豊かさは、消費や遊びよりも、仕事の辛さの軽減や、仕事から得られる喜びの拡大といった形で実現されていくのではないだろうか。
   

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