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読売ADリポートojo 2000年12月号掲載
「経済を読み解く」第9回
これからの「仕事」−21世紀、豊かさは仕事から−

激増したフリーター

 フリーターが急増している。今やその総数は300万人を超えたともいわれる。そうした状況を受けて、辛い仕事を避ける若い世代の軟弱さや、志の低さを嘆く声も聞こえてくる。
 しかし、辛い仕事を嫌がるのは自然なことである。大げさにいえば、経済の進歩とは、人々の辛い仕事を排除する歴史だったともいえる。自然現象に振り回される農作業も、危険の多い土木作業や、工場での単調な流れ作業も、今では大幅に軽減された。もちろん、それを途上国の人々に押し付けているからだという側面もあるが、少なくとも、辛い仕事を軽減すること自体が非難されるいわれはないだろう。
 フリーターという選択肢の登場も、辛い仕事の軽減という大きな潮流の一端として捉えることができる。フリーターの増加は、若い世代の価値観の変化によるものであると同時に、社会全体での生産力、経済力の向上を反映した現象でもあるということだ。
 フリーター達が避けようとしている「辛さ」は、生活の自由度の喪失、わずらわしい人間関係、価値観の押し付け、仕事の意義の見えにくさ等々、企業に代表される組織での仕事に特有の辛さである。


広がる選択肢

 組織での仕事に不満を持つ若者にとっての選択肢は、フリーターだけではない。「志の高い」人々のための選択肢も広がっている。一つは、NPOやNGOでの社会活動。かつては、社会活動といえば無償のボランティアが普通であり、職業としては考えられなかった。しかし、NPOやNGOでは、相応の報酬を得ることが前提である。これらの活動が社会的に認知され、広がってきたことで、社会活動も職業としての選択肢に入ってきた。
 また、ベンチャー企業設立のチャンスも広がった。「IT革命」が流行語となった昨今では、多くの若者が、起業を現実的な選択肢として視野に入れている。今後、景気の回復や金融環境の改善といった条件が整えば、チャンスはさらに広がるだろう。
 社会活動やベンチャーで活躍する若者には、フリーターから転じたケースも目立つ。そういった人々は、フリーターの特権である自由な時間の多さを活かして、いろいろな国を回ったり、趣味に打ち込むことで、社会活動や起業に向かう意志と能力を高めてきたのだろう。今の若者にとって、フリーターという生き方は、その後の「志の高い」生き方のための準備段階ともなり得るのである。
 もちろん、すべてのフリーターがそうだというわけではないが、こうした視点で見ると、フリーター300万人という数字は、また別の重みを持って響くのではないだろうか。


変化は企業での仕事にも波及

 NPO、NGO、ベンチャーなど、新しい仕事の形態が一般化することで、企業での仕事の性質も変わっていくだろう。ただでさえ労働力人口が減少していくなかで、人材がフリーターや社会活動、ベンチャーへと流れれば、既存の企業は事業を維持するための人材確保に苦労することが予想されるからだ。
 これまでは、企業での仕事は、フリーターやベンチャーに比べて、経済的な安定度の面では有利であった。しかし、終身雇用や年功賃金の放棄といった近年の流れから考えると、それも確かなものではなくなっている。既に多くの企業が、優秀な若手の流出に悩まされている。
 企業は、優秀な人材を繋ぎとめるために、仕事の自由度を高めたり、それぞれが能力を発揮できる環境を整える方策を採らざるを得ないだろう。また、企業としての社会的な意義を強調することで、人材を集めることも考えられる。
 いずれにしても、これからの企業は、自由とやりがいを求める者にとって、より働きやすい場となっていくことが期待できる。


「仕事」の変質

 「仕事」の性質は時代とともに変化してきた。日本で、企業が最大の「仕事の場」となったのは、せいぜい、ここ二世代ほどのことに過ぎない。次の世紀に、その状況が崩れても、さほど驚くような話ではないだろう。
 元来「仕事」とは、辛い、苦しい、束縛されるといったネガティブな面と、人や社会の役に立ったり自分の能力を発揮することで喜びを得るというポジティブな面を併せ持った行為である。そして、近年の仕事の選択肢の広がりは、ネガティブな面を薄め、ポジティブな面を強める動きといえるだろう。
 「仕事」は、「いやいややる辛いもの」から、「喜んでやる楽しいもの」へと性格を変えていく。その結果、「仕事と遊び」、あるいは「生産と消費」という、本来対立していたはずの概念の境目が曖昧になる。
 21世紀の「豊かさ」は、消費や遊びよりも、仕事の辛さの減退や、仕事から得られる喜びの拡大という形で実現するのではないだろうか。


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