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読売ADリポートojo 2003年6月号掲載
「経済を読み解く」第38回
進化を続ける小売業−店舗の進化から集積の進化へ−

厳しさを増す市場環境

 141万店から130万店へ。国内の小売店は、2002年までの3年間に10万店以上も減った。大型店やチェーン店に圧迫されてきた一般商店だけではない。大型店同士、チェーン店同士の競争が激しくなった90年代には、それらの店舗、企業からの脱落組も増えている。そごう、マイカル、長崎屋が倒産し、西友は世界最大の小売企業ウォルマートに買収された。かつてのトップ企業ダイエーも、多数の店舗閉鎖を含む厳しいリストラの最中である。
 市場環境は、確実に厳しさを増している。その背景に、経済全体の長引く不振があることは間違いないが、消費者がますます「扱いにくく」なってきたことの影響も大きそうだ。消費者の変質を大きなトレンドとしてとらえると、「消費者のパワーアップ」という表現で集約できる。所得の増加にともなう「購買力」の向上。加えて、テレビなどのマスコミやインターネットの発達を背景に「情報力」もアップしたし、自動車の普及で「機動力」も手にした。
 消費者のパワーアップは、商品や店舗に対する要求水準の上昇に直結する。品質の良さと安全性、リーズナブルな価格、買い物の便利さ、品ぞろえの奥行き、専門的な情報提供などなど。それに応えることで、小売業は進化を繰り返し、取り残された店舗や企業は淘汰されてきたのである。


主役はGMSから専門店チェーンへ

 近年の進化と淘汰のトレンドは、かつての業界の主役、GMSの凋落だろう。GMSは、総合量販店、総合スーパーとも呼ばれ、60年代から70年代にかけて、大型の店舗に日常生活に欠かせない商品を衣食住の全分野にわたって品ぞろえすることで消費者をひき付けて、急成長を遂げた。
 しかし、80年代に入って人々のニーズが高度化、多様化してくると、「何でもある」店の中途半端な品ぞろえでは消費者を満足させることは難しくなり、集客力を失っていった。そして90年代に入って厳しい競争の時代を迎えると、ベーシックな商品を幅広くそろえて集客するGMSは、ユニークな商品をそろえて差別化することが難しく、消耗戦的な価格競争に陥った。そして行き着いたのが、前に挙げたダイエー、マイカル、西友、長崎屋など倒産やリストラが相次ぐ現状だったというわけだ。
 この時期、GMSに代わって小売業の主役となったのは、多様化した消費者のニーズのなかから特定の領域に絞り込んで、奥行きのある品ぞろえと専門的な情報、サービスを提供する専門店チェーンであった。80年代から90年代にかけて、店舗の大型化で品ぞろえを充実させた食品スーパーや、家電量販店、ドラッグストア、ホームセンター、カジュアル衣料品店など、多彩な専門店チェーンが成長した。
 なかでも、日常的な食品と雑貨に絞り込み長時間営業を武器とするコンビニは、一般商店を業態転換させて店舗網に組み込んでいくフランチャイズ・システムの力で展開を加速させ、売り上げ規模でGMS企業を上回るまでになった。


商業集積としての進化

 小売業の進化の歴史は今も続いているが、新しい進化の一つは、これまでとはかなり違った性格のものになりそうだ。
 これまでの小売りの進化は、品ぞろえや販売手法といった個々の店舗の進化であった。それに対して、今目立っているのは、複数の店舗の集合体である「商業集積」の進化である。音楽になぞらえて言えば、独奏のレベルでの進化に、オーケストラや室内楽、あるいはロックバンドといった編成のレベルでの進化と多様化が加わってきたというイメージだ。
 商業集積のバリエーションは、古くからあるGMSを核にしたタイプや駅ビルに加えて、多数の専門店に映画館などのアミューズメント施設を加えたタイプ、丸の内や六本木など都心の再開発地域のショッピングゾーン、郊外のアウトレットモールなど、急速に広がりつつある。日常的なショッピングの場としては、食品スーパーにドラッグストアやカジュアル衣料品店を組み合わせた「NSC(近隣型ショッピングセンター)」と呼ばれるタイプも増えている。


指揮者の仕事

 小売業の進化がオーケストラやバンドの時代を迎えると、その指揮者やプロデューサーの仕事が重要になる。商業集積トータルでの集客力を最大化するために、組み込む専門店のラインアップを考え、その配置や全体の雰囲気をコーディネートする。こうした指揮者の役割を誰が担うのか。
 指揮者の仕事では、GMSからショッピングセンター運営に事業の軸足を移すことで業績を維持してきたイオン(ジャスコ)が先行している。アウトレットモールの開発では不動産会社や専業の商業デベロッパーが、NSCではその核店舗となる食品スーパーが活躍している。
 また、これまで有名ブランドの売り場を集客力の要とし、「場所貸業」と揶揄されてきた百貨店のなかからも、その路線を徹底させることで商業施設の指揮者として生き残りを図る企業が出てくるかもしれない。JRをはじめ駅ビルという優良な立地を押さえている鉄道会社も、指揮者は無理でもオーナー兼プロデューサーといった役回りは十分考えられる。さらには、商業集積のパーツとなる専門店を海外からスカウトしてくる役割では、総合商社あたりにも出番がありそうだ。
 こうして役者がそろい、商業集積が小売りの主戦場になっていけば、個々の店舗の進化も集積を前提としたものになるだろう。小売業の進化は他産業を巻き込み、さらに新しい段階を迎えることになる。


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