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日刊工業新聞 2005年2月28日付
成長するハイブリッド型商業施設−小売りの歴史に新局面−

 1904年に東京日本橋の三越百貨店がオープンしてから100年。日本の小売業は社会や経済の変化に応じて、進化、多様化を続けてきた。非日常的な娯楽としての買い物の場として登場した百貨店。企業も個人も効率を追い求めた高度成長期に、日常の買い物の効率化に貢献した総合スーパー(GMS)。特定の分野に絞り込んで品ぞろえを充実させることで「豊かな時代」の人々の高度な要求に応えた多彩な専門店チェーン。そしてここにきて、これらに続く新たな主役候補が浮上してきた。それは、複数の有力な専門店を組み合わせることで相乗効果による集客力向上を狙った、「ハイブリッド型商業施設」である。

 その萌芽は90年代半ばにはすでに見えてきていた。カテゴリーキラーと呼ばれていた価格訴求型の専門店をそろえた「パワーシティ四日市」や、百貨店と大型専門店、アミューズメント施設を組み合わせた新宿の「タカシマヤ・タイムズスクエア」などが代表格だ。そして21世紀を迎えたころから、ハイブリッド型の展開は一気に本格化した。六本木や丸の内など都心の再開発地域の商業ゾーンが話題となり、郊外の大規模モールの開設も増えた。日常的な買い物の場としては、食品スーパーにカジュアル衣料品店やドラッグストアを組み合わせたNSC(近隣型ショッピング・センター)と呼ばれる施設が主流になりつつある。これらはいずれも、百貨店の娯楽性とGMSの効率性、そして専門店の高度な専門性をさまざまなバランスで組み合わせた商業施設であり、その意味でも、「ハイブリッド」と呼ぶにふさわしい。

 ハイブリッド型の展開が本格化した要因としては、消費者の要求が一段と高度化したことや、専門店業態の成熟と多様化が進んだことに加えて、優良な立地の供給が増えたことの影響が大きい。都心の再開発が相次いだことに加え、経済のグローバル化を背景に国内製造業の再配置が進んだ結果、都市近郊に大規模な遊休地が多数出現した。競争に敗れて閉鎖される旧来型商業施設も増えている。ハイブリッド型の展開は、それらの跡を埋める形で進んできた。

 ハイブリッド型の成長は、既存の小売業の衰退を意味するわけではない。むしろ、ハイブリッド型という新たな舞台を得ることで、有力な小売業の成長と業態の多様化は加速する可能性が高い。他方、商業施設全体の開発・運営では、不動産業はもちろん、駅という優良立地を豊富に保有している鉄道会社の存在も大きい。百貨店やGMSも、従来からの小売業に加えて、商業施設の運営をビジネスとして本格化させている。

 これからの時代には、個々の店舗と施設全体の進化、多様化が複合的に進むことで、小売業の歴史の流れは、一段と加速することになるだろう。

日本の小売業の歴史


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