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いきいき 2005年9月号掲載
連載「未来への視点」第16回
経済が「成熟」するということ

 今の日本経済を表すキーワードの一つに、「成熟」という言葉があります。これは、経済を人や生き物になぞらえた表現ですが、日本経済の現状を説明するうえでは、なかなか分かりやすい譬えです。


大人になった日本経済

 戦後の日本経済の歴史を人の一生に譬えると、安い円レートと、手厚い産業政策に守られて急成長を実現した1950、60年代の復興期から高度成長期にかけては「子供時代」と位置付けられます。
 そして、70年代半ばのオイルショックを経て、経済の成長ペースが緩やかになった安定成長期には、日本経済は筋肉質な国際競争力を身に付けていきました。人の一生でいえば「少年時代」ということになるでしょう。
 その後、いわゆるバブルが膨らんで弾けるという混乱はありましたが、21世紀に入って、バブル崩壊の混乱をほぼ抜け出してみると、日本経済はすっかり「成熟」して「大人時代」を迎えつつあるのだということが、いよいよはっきりしてきました。


成長は期待できない

 経済が「成熟」するということの、もっとも分かりやすい表れ方は、成長の鈍化です。人が大人になると、背が伸びなくなるのと同じです。
 経済の場合、まったく成長しなくなるということではありませんが、人々が豊かになって、衣・食・住の基本的な欲求が満たされてしまうと、多くの商品・サービスの市場が飽和してしまいます。そうなると、経済が成長するためには、企業が新しい商品やサービスを次々に開発して、新しい市場を創り出していくしかありません。とはいえ、それは簡単なことではなく、どうしても経済成長のペースは鈍ってくるのです。
 そして、経済成長が鈍化してくると、経済の状態を判断する方法も、おのずと変わってくるはずです。


身体測定から人間ドックへ

 子供の頃には、体重や身長が順調に伸びているか、身体測定でチェックされます。中学生、高校生くらいになると、50メートル走や垂直跳び、握力、背筋力など、いろいろな体力測定を受けます。そして大人になると、定期的な健康診断や人間ドックが欠かせなくなります。
 経済のデータをこれになぞらえると、GDP(国内総生産)や個人所得の成長率は身体測定、労働生産性や企業の収益力を見るのが体力測定といえるでしょう。大人になった今の日本経済には、これらだけでは十分とはいえません。人間ドックのような、もっと細かいチェックが必要です。
 そのポイントは、人々の生活の質、雇用の安定、所得分配の公平と公正、各種の市場の透明性、教育や社会保障のレベル、自然環境や文化への影響など、問題がありそうなところをあげるだけでも、実にさまざまです。経済をウォッチするにも、視野を広げた見方が必要になってくるわけです。


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