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text025 2005年2月2日
旧論再検討(1)米国経済編−ハズレた悲観論−

 このサイトには、開設前のものも含めて、過去5年以上にわたって書いてきた文章をアップしています。その数は年々増えて、この文章を書いている2005年2月の時点では150本ほどになっています。そのなかには残念ながら、今にして思うとちょっと考えが足らなかったなあとか、間違ったなあといったものも結構あります。ですが、このサイトでは、そういう文章も削除したりせず、敢えてアップしたままにしています。

 ですが、そのままでは、書き手としてはどうにも気持ちが悪いものですから、いささか個人的な事情ではありますが、ここで一度、テーマごとにまとめて過去の文章を振り返り、自分自身の考え方がどう変わってきたのか、何をどう間違えていたのかを、整理してみたいと思います。今回は、その一回目として、自分自身で最も「ハズした感」が強い、米国経済の見通しを書いた文章について、再検討してみます。


IT革命のメカニズムと悲観論

 1990年代後半、米国は過去に例のないほどの長期にわたる好景気を謳歌しました。当時、その原動力は、流行語にもなった「IT革命」による生産性向上の加速と、株価の上昇にともなう家計需要の押し上げだと考えていました。

■米国のマクロ経済とIT革命
 (The World Compass 2000年7月号掲載)

 IT革命については、マクロの視点からは、いわゆるIT産業や情報通信産業以上に、ITを自らのビジネスに取り込んで生産性を高めた流通産業に注目すべきであるということを書きました。また、株価の上昇については、単なるバブルではなく、M&Aの活発化によって企業の潜在的な価値を織り込んだ新しい株価の尺度が生じたことが背景にあるということを書きました。その延長線上では、日本の金融システムの欠点を、米国のシステムとの比較で考えたレポートも書いています。

■検証 米国のIT革命と流通業
 (東洋経済統計月報 2000年6月号掲載)
■米国経済 株価をどうみるか
 (The Compass 1999年10月号掲載)
■新時代の金融システム−「良い構造改革」の先に飛躍の可能性−
 (読売ADリポートojo 2001年11月号掲載)

 これらの現状分析的なレポートについては、今振り返っても、まずまず的を射た考察ができていたと思っています。ですが、先行きの見通しについては、大きく見誤ったと言わざるを得ません。株価の上昇が止まってしまうと、経済がそのまま安定するのは難しく、バブル崩壊後の日本と同様に、株価と需要がスパイラル的に落ち込んでいくだろうという悲観的な予測を立てていたのです。

■米国経済 快走が止まるとき−バブル末期の日本との対照−
 (リテールバンキング 1999年10月号掲載)

 上記のレポートは、時期的には古いものですが、2002年に入る頃までは、そこに書いたシナリオが、私の考えの中心にありました。ですが現実には、いわゆるITバブルの崩壊や9.11のショックを経た後も、リセッションは長くは続かず、米国経済は底堅く推移してきたのです。


貧困エンジンの威力

 米国経済が深刻な不況に陥らずにすんだのは、雇用環境が悪化しても、そして株価が停滞しても、家計セクターの需要が堅調を維持したためでした。そして、その背景には、90年代の好況期に貧困の状態を抜け出した人々の旺盛な需要、さらに突きつめると、国外からの貧しい移民を受け入れ続けることで経済の成熟化を防ぐという、米国に特有のメカニズムがあったのだと考えられます。

■米国経済−繁栄と貧困と−
 (The World Compass 2000年10月号掲載)

 そのあたりを強く意識したのは、米国経済がまだ絶好調だった99年末に米国へ出張したときのことです。その出張では、「今の米国を理解するには絶対に視ておかなくては」と上司に強く勧められて、ラスベガスに足を伸ばしました。当時のラスベガスには、裕福な人々だけでなく、貧しいとは言わないまでも、さほど裕福でない人々が大挙して押し寄せていました。そういう熱気に触れたことで、彼らの旺盛な消費意欲が米国経済を支えていることを、強烈に印象付けられたのです。

 ですが当時は、低所得者層の需要の旺盛さよりも、株価と需要の下降スパイラルの圧力が大きいと考え、悲観的な見通しを立てていました。その判断は、今となっては完全に間違ったと言わざるを得ません。最近では、貧困が経済のダイナミズムを生み出すメカニズムについて、「貧困エンジン」という表現で改めて取上げ、米国だけでなく世界経済の潮流を考える枠組みとしても使っています。

■米国経済は巡航速度に向けてソフトランディングへ
 (商品先物市場 2004年11月号掲載)
■経済の活力をどう確保するか−世界に広がる「貧困エンジン」のメカニズム−
 (読売ADリポートojo 2003年12月号掲載)

 ただ、米国経済の底堅さは、貧困エンジンだけによるものかというと、どうもそうではないような気がしています。そのあたり、社会構造や制度、文化など、もっと多彩な視点から見ていく必要があると考えています。

 また、株価と需要の下降スパイラルについても、可能性が消えたわけではありません。双子の赤字を背景としたドルの暴落や長期金利の急騰など、市場心理のちょっとした変化で大きく動きかねないリスクファクターも多々あります。米国経済の動向については、ファンダメンタルズだけでは読みきれない市場の動きも含め、今後も慎重にウォッチしていかなくてはならないでしょう。


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