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読売新聞媒体資料(2001年11月発行)
新時代の情報流通

 情報技術の飛躍的な発達とインターネットの急速な普及は、経済、社会のあらゆる局面で変革の起爆剤となり、その動きは依然として加速し続けている。

情報爆発で変革を迫られるメディア産業

 ITによる社会変革の一つの側面として、情報の流通量の爆発的な増加、「情報爆発」があげられる。パソコンの機能が向上したことで、普通の人でも、ソフトウェアや映像、音楽といった情報を、市場性のある形、すなわち他人とやり取りできる形で製作することが可能になった。加えてインターネットの普及で、情報を流通させるチャネルも大幅に拡充された。インターネット上のホームページという形で、情報流通のメディアは事実上無限のキャパシティを持ったのである。さらに、ブロードバンド化、ユビキタス化によって、情報の受け手にとってのインターネットは、テレビや紙媒体に近い自然な使い勝手を獲得していくことが予想される。
 これらの結果、情報の製作・流通の機能を保持することを事業のコアとしてきた、新聞や雑誌、出版、テレビ、ラジオといった既存のメディア産業は、ビジネスモデルの根本的な見直しを迫られることになる。誰もがインターネットを通じて多様な情報を容易に、また無償で入手できる環境下では、ただ情報を伝達するパイプを持っているというだけでは、ビジネスとして成立しなくなるからだ。
 メディア産業が存続していくためには、他の情報チャネルとの差別化を果たしていくことが前提となる。情報の伝達手段を持っていることが差別化要素にならない以上、差別化の基本になるのがコンテンツの方向性とクオリティであることは言うまでもない。問題は、次々に登場する新しい情報チャネルのなかで、自らのポジションをどこに定めるかにある。

新聞に期待される情報ナビゲーターとしての役割

 情報爆発を経たIT時代、メディア間のポジション争いでは、既存メディアが苦戦するのではないかという見方もある。しかし、新聞には明確な役割期待がある。あらゆる情報のスタンダードを提示し続ける役割だ。これまでのところ、一気に溢れ出した大量の情報は、十分に整理されないままでサイバースペースに流れ込んでいっている。無償の情報が爆発的に増え続ける一方で、それを評価、選別する機能は圧倒的に不足している。この状況は、これまでの情報流通において評価者、選別者としての機能を果たしてきた新聞の役割の再評価につながるだろう。
 IT時代の新聞には、自らの直接的な取材をベースに確度の高い基礎的な情報を発信していくことに加え、流通している膨大な情報の中から、より専門的な情報、詳細な情報、特殊な情報、偏った情報などを選別、整理したうえで紹介していく、「情報ナビゲーター」としての役割を期待したい。その際には、新聞社の強力な取材力に加えて、百年以上にもわたって情報のメインチャネルであった実績から生じる先行者メリット、一種のブランド力が武器になるだろう。

情報流通の将来像

 IT時代の情報流通の世界では、既存メディアと新興メディアが、それぞれの強みを生かして共存する状況が予想される。これは、商品流通の世界でも見られるスタイルだ。
 商品の供給が量的にも、また多様性の面でも飛躍的に拡大した高度成長期以降、大量の商品を低コストで、また便利に流通させるチャネルとして、スーパーやコンビニなどのチェーン型流通業が成長した。しかし、その一方で、昔ながらの専門店やデパートも、特定分野での専門性やブランド力など、それぞれの強みを生かすことで、自らの生きる道をみつけてきた。消費者の側からすると、多様な流通チャネルを目的や状況に応じて使い分けることで、より豊かで便利な消費生活を実現できたのである。
 同様に、情報流通の世界でも、大量の情報を迅速に、低コストで、また利便性の高い形で流通させる新しいメディアと、情報の選択力、ブランド力を武器にする既存メディアが共存していくことになるだろう。さらには、異なる情報メディアが、互いの強みを利用しあう形で融合し、さらなる進化を遂げていくことも十分考えられる。
 そうした中、情報の受け手は、多様なメディアを目的や状況に応じて使い分け、それぞれが望む情報を、望みの形で手に入れることが可能になる。そして、情報の出し手にとっても、それを流通させるチャネルとしてのメディアを、どのように使い分け、活用していくかが、重要な課題となるだろう。それぞれのメディアの特性を理解したうえで、情報発信の目的を明確にし、それに見合ったメディアを選択していくことが求められる。多彩なメディアが共存し、進化を続けるIT時代は、情報の出し手にとっても、その戦略の巧拙を問われるエキサイティングな時代となるだろう。


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