Works
チェーンストアエイジ 2006年7月15日号掲載
「データで読む流通」
確度を増す景気回復と出遅れる小売業

 2006年の日本経済は、依然として明暗の入り交じるモザイク型の様相ではあるものの、全体としてみれば、回復基調は一段と確度を増してきている。長期にわたる不振から日本経済を回復させてきたことは、9月に任期満了を迎える小泉政権の大きな業績といえるだろう。小泉政権では、「改革なくして回復なし」を合言葉に、構造改革によって景気回復を実現することを標榜してきた。しかし、今回の景気回復は、必ずしも政権が推し進めてきた構造改革の成果であるとは言い難い面がある。

 現在進行中の景気回復の主因は、多くの企業が、工場や店舗の閉鎖、余剰人員の削減、不採算事業からの撤退といった、痛みをともなう大胆な事業改革を進めた結果、低下していた収益力を取り戻したことに求められる。小泉政権の貢献は、公共事業の拡大のような旧来型の景気刺激策をとらないと宣言することで企業の改革を促すと同時に、「しばらくは痛みに耐えて」という表現で、社会全体に、雇用の削減を含む企業のリストラ策を容認するムードを醸成したことにある。いわば、「改革」を唱え続けたことによるアナウンスメント効果である。

 景気回復のそうした実態は、産業ごと、企業規模ごとの景況感のモザイク模様に明確に現れている。下の表は、日銀短観における業種別、企業規模別の業況判断DI(業況を「良い」と答えた企業の割合から「悪い」と答えた企業の割合を引いた値)の推移を示したものである。

 これによると、全企業のDIは、05年に入ってほぼニュートラルな状態となり、06年には明確にプラスの状態となっている。しかし、企業規模別にみると、事業改革を進めるだけの体力のあった大企業の回復が進んでいる一方で、事業規模が小さく思い切った事業改革の難しい中小企業では、依然として、回復を感じていない企業が多数を占めている。とくに、リストラの「痛み」を押し付けられる形になった家計セクターの需要に依存する小売業や飲食・宿泊、対個人サービス業の中小企業は、製造業に比べて大きく出遅れている。製造業のなかでも、繊維や食品など国内の消費者向けのウェイトが大きい業種では、回復感は鈍いままである。

 今後は、企業セクターの回復が雇用や賃金の改善を通じて家計セクターに波及することで、出遅れていた産業にも回復の波は及んでくるだろう。とはいえ、既存の市場の多くが飽和に近づいている成熟化した経済においては、ただ待っているだけで業況が回復することは考えにくい。規模の小さい中堅・中小の小売企業にも、創意に基づく思い切った事業改革が求められていることに変わりはない。「改革なくして回復なし」とは、経済全体というよりも、個々の企業にこそあてはまる。

産業別・企業規模別の業況判断DI(日銀短観)の推移
  • 出所:全国企業短期経済観測調査(日本銀行)、通称「日銀短観」
  • 業況判断DI=「業況は良い」と答えた企業の割合−「業況は悪い」と答えた企業の割合
  • 大企業:資本金10億円以上、中堅企業:同1億〜10億円、中小企業:同2,000万〜1億円
  • 「全産業」には、表に示していない他の業種も含まれている


関連レポート

■商業統計に見る小売と消費の時代潮流
 (チェーンストアエイジ 2008年5月15日号掲載)
■消費の行方−市場は「心」の領域へ−
 (ダイヤモンド・ホームセンター 2007年4-5月号掲載)
■小泉改革を考える−復興と改革と摩擦の4年間−
 (読売ADリポートojo 2005年10月号掲載)
■再浮上した成熟化の問題
 (The World Compass 2005年4月号掲載)
■需要創造の第一歩はアイデンティティの再検討から
 (ダイヤモンド・ホームセンター 2005年4-5月号)
■デフレは終焉を迎えるか?−マクロでは微妙だが、好調企業はすでに脱出−
 (チェーンストアエイジ 2004年12月15日−1月1日合併号掲載)
■これからの景気回復−モザイク型景気拡大の時代へ−
 (読売ADリポートojo 2004年12月号掲載)
■消費者を動かす力−脱・安売り競争時代のキーワード−
 (チェーンストアエイジ 2004年10月1日号掲載)
■今求められる構造改革とは
 (The World Compass 2001年10月号掲載)
■小泉改革への期待−良い構造改革、悪い構造改革−
 (読売ADリポートojo 2001年7月号掲載)
■デフレの話−価格破壊から価格崩壊へ−
 (読売ADリポートojo 2001年6月号掲載)


Works総リスト
<< TOPページへ戻る
<< アンケートにご協力ください
Copyright(C)2003