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読売ADリポートojo 2004年7-8月号掲載
連載「経済を読み解く」第49回
耐久財ブーム再び−「新・三種の神器」のインパクト−

 新聞や雑誌、テレビで「新・三種の神器」とか「デジタル景気」といった言葉を目にする機会が増えてきた。新・三種の神器と呼ばれる薄型大画面テレビとDVDレコーダー、デジタルカメラに代表されるデジタル機器の需要が景気の回復に一役買っているという見方が広がってきたためだ。
 今回のように、耐久消費財のブームが景気を押し上げる図式は、過去にも何度か見られたが、それらはいずれも時代の節目を形成してきた。以下では、その歴史を振り返ることで、今回のブームの意味について考えてみたい。


高度成長期の耐久財ブーム

 そもそもは天皇家に伝わる三つの宝物を指す「三種の神器」という言葉が、耐久消費財について初めて使われたのは、高度成長が本格化した1960年代前半のことであった。テレビ、電気洗濯機、電気冷蔵庫の三種。これらを家庭にそろえることは、消費者にとっての高度成長の果実であり、この時代の「豊かさ」の象徴であった。
 初代の三種の神器の普及が進んだ60年代後半になると、新たに、自動車、カラーテレビ、クーラーの三品がターゲットになった。このときにも「新・三種の神器」という言葉が使われたが、後には、3品の英語の頭文字をとった「3C」という呼び方が定着した。
 三種の神器にしろ3Cにしろ、高度成長期には、明確な欲求の対象が存在し、誰もがそれを手に入れようと頑張って働いた。そして、それが経済全体の成長につながるという、きわめて分かりやすい図式が成立していたのである。
 しかし、3C以後に登場してきたビデオデッキやムービー、CD、ファクスなどは、いずれもあると便利だし魅力的でもあるが、「欠かせなさ」という意味では、三種の神器はもちろん3Cに比べてもかなり落ちる。「いらない」と考える人も少なくない。人々が求める「豊かさ」のイメージが次第に多様化していったことも影響しているだろう。特定の新商品が景気を押し上げる形の耐久財ブームは、3Cの後には見られなくなった。3Cブームの終焉は、日本の高度成長の終幕をも意味していた。


バブルとIT革命

 3C以来久々の耐久財ブームは、20年近くたった80年代後半、バブル景気とともに訪れた。もちろんその最中にはバブルという認識はなかったわけだが、株や土地の値上がりと低金利、好景気によって膨らんだ消費者の購買力は、「ワンランク上の」とか「こだわりの」といった言葉で飾られた高額な耐久消費財へと向けられていった。対象は自動車、家具、ブランド衣料品から宝飾品、絵画ときわめて多彩で、いずれも輸入品が幅をきかせていた。
 このブームは、株価と地価の下落、そして長期不況の到来で幕を閉じた。バブルという言葉は、流行しはじめた当初は、ブーム期の浮かれた気分を反省する文脈で使われることが多かった。
 バブル期の耐久財ブームは、購買力の拡大と時代のムードという消費者の側からのブームであった。その点で、新製品の登場という供給側の要因が起点となった三種の神器や3Cのブームとは大きく性格を異にするものだったと言えるだろう。
 次に来たブームは、Windows95の登場から徐々に盛り上がり、「IT革命」の流行語とともに2000年ごろに最高潮に達した、パソコンとその周辺機器の需要拡大である。このブームは、耐久財の需要拡大という意味では、携帯電話も加わって今もまだ続いている。
 しかし当時はむしろ、パソコンとインターネットを活用した新しいサービス、ビジネスの登場の方に注目が集まり、高度成長期の耐久財ブームとはかなり違った性格の現象ととらえられていた。その意味でのIT革命ブームは、もてはやされたIT関連のベンチャー企業が相次いで破綻したことで、いったん終止符を打つことになった。


新・三種の神器の位置付け

 今回の新・三種の神器ブームは、初代三種の神器、3C、バブル、IT革命に続く、戦後5回目の耐久財ブームと位置付けられる。その性格は、新製品の登場が消費者を惹き付け、それに対する需要の拡大がメーカーの設備投資と雇用の拡大につながるというもので、3C以来久々に訪れた典型的で明快な耐久財ブームと言える。
 ただ、経済全体に与えるインパクトにはかなりの違いがある。それぞれの年間国内出荷額を個人消費総額との対比で見ると、カラーテレビのピークは70年の1.9パーセント、乗用車では3.1パーセント(70年)にも達したのに対して、今回の新・三種の神器は、3種合計でも03年時点で0.4パーセントに過ぎない。むしろ、00年に0.8パーセントを記録したパソコン(本体のみ)や、03年に0.6パーセントの携帯電話のインパクトの方が大きい。新・三種の神器の需要は今後さらに盛り上がると考えられるが、出荷台数は増えても価格の低下が並行して進むことが予想され、初代三種の神器や3Cのレベルにはとても届きそうにない。
 とはいえ、二けた成長が当たり前だった高度成長期と現在では、経済の構造も大きく異なっている。長年にわたる不況に喘ぎ、低成長への適応を進めてきた今日の日本経済にとっては、新・三種の神器の登場は干天の慈雨とも言うべきもので、きわめて大きな意味があると評価できる。
 今回のブームでは、新商品の投入による消費需要の開拓で景気を押し上げたことで、日本の製造業が改めてその底力を示した。今後は海外メーカーとの競合激化も予想され、楽観ばかりしてはいられないが、まずは拍手を送っておきたい。


関連レポート

■再浮上した成熟化の問題
 (The World Compass 2005年4月号掲載)
■これからの景気回復−モザイク型景気拡大の時代へ−
 (読売ADリポートojo 2004年12月号掲載)


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