Works
読売ADリポートojo 2002年6月号掲載
「経済を読み解く」第27回
「結婚」の経済学−ジューンブライド神話の背景−

 6月の花嫁は幸せになる。これは、夏至のころに1年で一番気候の良い季節を迎えるヨーロッパの話であって、6月が梅雨にあたる日本にはあてはまらないという話もある。それでも、ジューンブライドに憧れる女性は、日本でも多い。これにはどのような背景があるのだろうか。


イベントとしての結婚

 結婚は、人生において自分を主役に、自分でプロデュースできる最大のイベントである。何十人もの人を集めて、その前で主役になれる機会というのは、結婚式・披露宴の他には、そうあるものではない。
 だからこそ精一杯華やかで立派なイベントにしようと、欧米の風習をベースに、さまざまなアイデアが盛り込まれていった。その蓄積で、純白のウエディングドレスとお色直し、祝福のライスシャワー、ケーキカット等々、多くの女性が憧れる結婚式・披露宴の定番メニューが出来あがってきたのである。
 もちろんイベントにはお金がかかる。結婚披露宴の費用についてはいろいろな調査があるが、平均で300万円強になるようだ。これに婚約指輪や新婚旅行、家具の購入などの新生活準備を加えると、結婚にかかる費用は一組あたり700万円前後。一生のうちで、家を買うのに次ぐ大きな支出だ。また、結婚するカップルの数は年間80万組弱で推移しているから、全体でみれば年々6兆円近い需要が生まれている計算になる。市場としてはかなりの規模だ。


人生最大のギャンブル

 結婚は、良くも悪くも、生活を一変させる。相手もいないのにとにかく結婚したいという、いわゆる「結婚願望」も、人生を変えたいという思いから生じる場合がかなりの部分を占めているように思われる。確かに、生活の変化を求めるには、結婚というのは有力な手段だ。周囲の人にも祝福され、変化のための切り札とも言えるくらいだ。
 ただし変化といっても、「良くも悪くも」という点が問題だ。「結婚は人生最大のギャンブルだ」という言葉がある。これは、うまくいった場合と失敗した場合の差が極端に大きいことを指した表現だ。周囲に祝福され、愛する人と一緒に幸せな家庭を築いていければ賭けは勝ち。逆に、二人で暮らすのが苦痛になったり、他の人に心が移ってしまったら負けである。
 加えて、結婚というギャンブルには相応の賭け金も必要だ。恋人同士の関係であれば、別れるのも比較的簡単だが、結婚してしまうと、別れるのに必要なエネルギーは格段に大きくなる。これは、結婚相手以外の人との恋愛をはじめ、いろいろな面での自由を失うことを意味する。「結婚は人生の墓場だ」というのも、結婚で失う自由の重みを表した言葉だ。結婚に踏み切るにはそれなりの覚悟が要る。だからこそ、結婚という決断を通して、お互いの本気度を確認しあうことにもなるわけだ。
 結婚のこうした性質を経済行為になぞらえて言えば、結婚とは「自身の自由を代償に、相手の気持ちを確認し、二人の関係を確定させる取引」ということになる。そのうえで、確定した二人の関係が大きな幸せを生むかどうかが勝負である。結婚相手を紹介するビジネスが成り立つのも、結婚がきわめて重大な選択だからこそだ。大安やジューンブライドにこだわる人が多いのも、結婚というギャンブルに際しての縁起かつぎ、と捉えれば理解しやすい。
 また、現状への満足度が高いほど、大きなギャンブルには慎重になる。経済水準の向上や、女性の社会的地位の向上とともに、晩婚化、非婚化が進んだのも、結婚のギャンブル性のためと考えられる。


気軽になった結婚

 式を挙げて神様に誓ったり、盛大な披露宴を開いて周囲の人たちに祝ってもらったりという、結婚のイベントは、ギャンブルの取り決めを徹底させるための方策と捉えることもできる。神様を信じていれば、その前で誓った約束を破るのには抵抗が大きいだろうし、親戚や職場の人を集めて盛大な披露宴をやってしまえば、離婚するとは言い出しにくくなる。
 とは言っても、その効果は年々薄れてきているようだ。離婚件数は増加を続け、2000年には、1年間の離婚件数は約27万組、20年前の2倍近くに達している。婚姻件数が年80万組弱だから、単純に考えると、長期的にはほぼ三組に一組が離婚する計算になる。再婚の件数も増加している。2000年には、総婚姻件数中、新郎新婦のいずれかが再婚であった比率は20%を超えた。
 要するに、結婚というギャンブルが、一度限りの一発勝負ではなくなって、やり直しのきく気軽な勝負になってきたということだ。
 これは、結婚を神聖視する人の目には、ゆゆしい事態と映るかもしれない。しかし、経済的な判断基準からいえば、生活を改善できる可能性が増えた、あるいは、生活を変化させるためのコストとリスクが低下したという意味で、望ましい方向への変化という評価になる。
 結婚の意義が軽くなったことで重みを増したのが出産である。結婚によっても確定できなくなった二人の関係は、子供を産むことで、ようやく確定的なものとなる。そういう状況下では、結婚しても子供はしばらく産まないという選択が現実的な意味を持つ。少子化が進んだ原因は、こんなところにもありそうだ。
 結婚のあり方の変化は、人々のライフスタイルを左右し、経済全体の構造変化にもつながる。晩婚化、非婚化、離婚と再婚の増加といった潮流は、21世紀の日本経済を考えるうえで、決して無視できないファクターである。


関連レポート

■人口の減少と集中と−高度成長の重いツケ−
 (読売ADリポートojo 2005年6月号掲載)
■離婚・再婚の増加で生まれるビジネスチャンス
 (ダイヤモンド・ホームセンター 2002年8-9月号)


「経済を読み解く」バックナンバー一覧

Works総リスト
<< TOPページへ戻る
<< アンケートにご協力ください
Copyright(C)2003