Project in Progress
映画に見る私たちの経済
3.ショーシャンクの空に−リテールビジネスの進化形−

 映画に登場するヒーローといえば、ジェームズ・ボンド、スーパーマン、インディ・ジョーンズ、ハリー・ポッターと、いくらでも数えることができますが、私にとっては、「ショーシャンクの空に」の主人公、元銀行マンの服役囚アンディ・デュフレーン(ティム・ロビンス)も、最高のヒーローの一人です。彼の武器は、絶望的な状況でも希望を捨てない強靭な精神力。そして、金融の専門知識でした。この映画は、彼の長い長い闘いの物語ですが、ちょっと見方を変えると、リテールビジネスを成功に導くヒントも示されています。

 主人公のアンディは、若くして銀行の副頭取の地位にあったのですが、無実の罪で終身刑に服させられます。「ショーシャンク」というのは彼が投獄された刑務所の名前ですが、彼はそこで、日々、看守と他の囚人の暴力にさらされます。インテリのアンディにはきわめて辛い世界です。ところが、遺産の税金対策に頭を痛める看守長に助言を与えたことで、彼の生活は一変します。看守長は、はじめは囚人のくせに生意気だと激怒するのですが、結局はアドバイスを受け入れ、感謝の印としてアンディと仲間たちにビールを振る舞います。さらに、アンディをつけまわす囚人にリンチを加え、病院送りにしてしまいます。アンディは、暴力が支配する刑務所ではもっとも大切な、「安全」を手に入れることに成功したのです。

 その話を聞いた他の看守たちも、次々にアンディの「顧客」になっていきます。看守仲間の間での評判は次第に高まり、他の刑務所の看守までがアンディの前に行列を作りました。ついには刑務所長までがアンディを利用しはじめます。不正に稼いだ裏金の管理をアンディに任せたのです。これが後々アンディの運命を大きく左右し、鮮烈なラストシーンへとつながっていくのですが、それはさておき、ここではアンディのビジネスに注目してみましょう。

 アンディが刑務所内で「金融・財務アドバイザー」の地位を得たのは、1950年頃の出来事として描かれています。しかし、この映画が公開された94年、さらには21世紀を迎えた今日でも、アンディの前に行列ができることに違和感はありません。こんなアドバイザーがいれば相談してみたい。映画を観た人の多くがそう感じたことでしょう。

 彼の前に行列ができたのは、そのサービスが無料だったというのも大きいでしょう。ですが、それに加えてもう一つ、彼のサービスが100パーセント顧客本位であり、しかも、すべての顧客がそれを疑わなかったというのが重要なポイントだったと考えられます。顧客本位というのは、たくさんの小売企業やサービス企業がモットーとして掲げる決り文句の一つです。しかし実際には、企業である以上は儲けなくてはなりませんし、仕入先や従業員も大事。仕入れた商品は売りさばかなくては損がでる。「一にも二にもお客様」というわけにはいきません。現在の「賢い消費者」は、それを十分承知していて、お店の人が何かの商品を薦めても、売れ残りなのではないかとか、儲けの大きい商品なのではないかとか、いろいろと疑ってかかります。現実のリテールビジネスでは、顧客の信頼を得るというのは、たいへんなことなのです。

 ところが、アンディのビジネスは、それを実現できている。それは、どうしてか。アンディのビジネスには株主もいなければ商品の仕入先もありません。もちろん在庫もない。ひたすら顧客の看守たちを喜ばせて、その報酬として安全とささやかな自由を得る。実にシンプルなビジネスモデルです。看守たちも、そうした背景がわかっていますから、アンディのアドバイスに変な疑いを持ったりはしないわけです。

 低価格を武器にした成長戦略を描けた時代ならともかく、デフレ下で泥沼の価格競争に陥っている日本のメーカーやリテール企業にとっては、顧客の信頼というのはきわめて重要なファクターになるはずです。その意味で、アンディのビジネスは、行き詰まった感の強い日本のリテールビジネスの進化の方向を示すヒントにもなりそうです。

 カギとなるのは100パーセント顧客本位の姿勢であり、その前提は、顧客以外のものに縛られないビジネスモデルです。在庫は持たない。できれば商品販売はせず、サービスや情報の提供に徹する。商品を販売する場合にも、それはサービスの付録に過ぎないというスタンスを明確にする。大筋としては、こんな感じでしょうか。このような事業戦略は、商品を売るビジネスにとってもサービス業にとっても、単にデフレへの対応というだけでなく、消費者が力をつけた「豊かな時代」に適応した進化にもつながります。また、アンディのような信頼できるアドバイザーがサービスを競うようになれば、私たち一人一人にとっても、さらに豊かな消費生活への道が拓けてくるでしょう。


今回の映画

ショーシャンクの空に(1994年、アメリカ)
 監督:フランク・ダラボン
 原作:スティーヴン・キング
 出演:ティム・ロビンス、モーガン・フリーマン
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